2005年07月29日

消えない声

 お題: 少年と○○




  あの真夏日以来、ずっと聞こえている声。

   何処となく悲しみを帯びたその声は
   何故か懐かしい気がするけれど・・・

     _____ねぇ、君は誰?


消えない声




ある夏の事。

額を伝う汗をうっとおし気に拭いながら歩く少年が一人。

頭には麦藁帽子をかぶり、

小さな身体には不釣合いな鞄を背負い、

手には丈夫そうな棒が握られている。

ちょっとした、冒険者気取り。

けど、それでいつもと変わりのない町並みが

見知らぬ冒険の地に見えてくるから不思議だ。

慎重な足取りであちこちに視線を走らせながら、先へ先へと進んでいく。




・・・ふと風の流れを感じて、少年は足を止めた。

ほのかに肌寒さを感じさせるような風。

そんな事を考えて、少年は眉をひそめた。

今は八月の半ばとはいえ、まだまだ暑い。

現にこうして汗はいやおうなしに流れ落ちてくるし、

麦藁帽子の落とす影がなければ

眩し過ぎて目が眩むような太陽の日差しがさんさんと降り注いでいる。

そんな中を肌寒さを感じさせるような風が吹くわけないじゃないか、と・・・。


けど、どうやら少年の興味はそちらの方に移ってしまったようだった。

その風が吹いてきたと思われる方向へと足を運ぶ。

少年自身、ここまで遠出をした事は今までになかった。

なのにも拘わらず、

まるでばっちり待ち合わせていたかのように

少年は一つの神社の前に立っていた。



初めて目にする神社。

しんと静まり返った中、自分の鼓動だけが響いている。

まるで、

自分以外の生き物が存在していないと錯覚させられるような、

そんな雰囲気がそこには感じられた。


寒気が走った。

先ほどの風が冷たく感じられたわけが今やっと分かった。



「近所の神社のお祭りはあんなに賑やかだったのに・・・。

 普段の神社ってこんなにも静かだったんだな。

 凄い差だよなぁ〜・・・!!」


気持ちを落ち着かせるように、

少年は馬鹿でかい独り言を漏らした。


だがそれは寒々と響くばかり。

恐怖が少年を襲った。



(・・・帰ろう。)



少年は神社を後にしようと向きを買えた。

そうして息を呑んだ。

振り向いた先にそれはいた。


一人の少女。見知らぬ娘だ。

少年と同い年かそれより少し年下ぐらいの年齢に思われた。

抜けるように白い肌をしている。

まるで血が通っていないような、そんな不健康そうな肌。

だからだろうか。

少年は少女に生気というものを感じられないような気がした。

だからだろうか。

少年には少女がいつからここにいたのかも、

いつ自分の後ろに来たのかも分からなかったのは。

毎日のように外に出歩いて

こんがりと日焼けした少年とは凄く対照的である。



少女は笑った。・・・笑ったんだと思う。

相変わらず視線は少年の方へと注ぎながらも目を細め、

口元も微かに緩んだように思う。

もともと少年は人懐っこい性格をしていなかった。

だから今初めて会ったばかりのその奇妙な少女の事を気にしながらも、

あえて声をかけたりせず

神社を後にし、冒険の続きに没頭しようとした。



しばらく歩いてふと後ろを振り返ってみると、

先ほどの少女が後を着いてきていた。

さきほどと変わらぬ笑みを浮かべながら。

少々やりにくさを感じたが、

わざわざ追い返すわけにもいかない。

見えない障害物に向かって棒を振り上げる少年を不思議そうに、

でも楽しげに眺めているその様子からは、

少なからず少女に生気を持たせているようでもあった。

それに水を指すような事はしない方がいい、と少年は思った。

家の塀の穴から飛び出してきた猫を虎に見立てて、

少年は油断なく棒を構えたまま

塀に背中をするようにしてやり過ごす。

当の猫はといえばそんな少年にはお構いなしに、

道端に寝そべりながらのんびりと欠伸なんぞを浮かべている。

その猫を通り過ぎた後少女の方に目をやると、

彼女は猫の前にかがみ込んで手を伸ばしていた。

そして猫の方はと言うと

さっきまでの様子がまるで幻だったかのように、

耳と尻尾を立て前かがみの状態で唸っていた。

少女を威嚇しているようだ。

だが、どこか何かにおびえているようでもあった。

そんなのこの様子に眉をひそめた少女だが、

それでも更に手を伸ばした。



次の瞬間、猫は少女の手を引っかいた。

そして脱兎のごとく逃げ出した。

少女は引っ掛かれた手の甲を押さえ

無言で猫の走り去った方向を見やっていた。



「あの猫、人懐っこくないからな。」



仕方ないべ?というように肩をすくめて見せてやる。

本当はあの猫に会うのも今日が初めてだったりもするのだが、

その場の気まずい雰囲気を和ませようという

そんな少年の試みだった。


少女は何も言わなかった。

無言のまま立ち上がり少年の隣に並ぶ。

そして顎をしゃくりあげ先の道を示す。

まるでさっきの続きにかかれとでもいうかの様なその仕草には

何やら不機嫌さがにじみ出ていた。

どうやらとばっちりを受けたらしい事にため息をつきながらも、

少年は特に文句を漏らす事無く歩き出した。

歩き出すその時に、少年は少女の手の甲を見やった。

あるはずの傷がそこにはなかったような気がした。

しばらく歩いていて少年はふとあることに気が付いた。

そういえば今まで少女の声を聞いてないような気がする。

彼女も自分と同じく

初めて出会ったばかりの人とは何も喋らない人種なのだろうか?

だが、ここまで一緒に遊んでおいて

そのままでいるっていうのも気が引けて少年は言った。



「君って、いつも一人で遊んでるの?」



少年の問いに、少女は答えようとはしなかった。

いや、違う。

微かにだが少女の口が開いたような気がした。

それを見た少年は眉をひそめてゆっくりと問いかけた。



「もしかして君・・・、しゃべれない?」



その言葉を聞くや否や、少女は表情を一変させ

地面に落ちていた石を広い少年の方へと投げつけた。

重く大きな石。

それは不意を突かれた少年の頭に直撃する。

大きな衝撃に少年の体がよろめいた。

次いでじりじりと痛みが彼を襲った。



「・・・なっ!!」



驚きと戸惑い、

そして怒りを含んだ声を搾り出す少年に向かって

少女は尚も石を投げ続ける。


流れ出る血で視界がゆがむ。

熱くどろっとしたその感触が体中を覆う。

口の中にまで、鉄の味をしたものが込み上げてきた。

どうやら食いしばった歯で舌を切ったらしい。

不快感溢れるその感触に、涙すら浮かんでくる。



「・・・・える?」


そんな中を、誰かの声が聞こえてきた気がした。

意識が朦朧としてくるのとは反対に、

その声は強くなってきているようだった。



「ねぇ、私の声が聞こえる??」



これは・・・。少女の声なのだろうか・・・?



「私はあなたに会った時からずっと喋ってた。

 でも、あなたには聞こえてなかったみたいね。」



石を投げる手を休める事無く、少女はそう話し続ける。



「それは、私とあなたは違う人種だから。」



少女の石を投げつける範囲から逃げ出すように、

少年はふらつく足に鞭を打ちながら必死に歩き出す。


しばらく進んだ十字路の角のところまで来て、

少年はあるものを目にした。

先ほど少年が虎に見立てた猫。

少女を引っかいたあの猫がそこにはいた。

変わり果てた姿となって・・・。


白かった毛並みは真っ赤に滲んでいた。

車にでも跳ねられたのだろうか。



「そう。私は死んだのね。あなたに声が聞こえなかったのもその所為よ。

 その猫に引っ掛かれた時血が出なかったのも。

 分かっていたわよ。

 でも!信じたくなんかなかった!

 だから私が死んだんだって事を思い出させたその猫が憎かったわ。

 だから、『呪ってやる』って脅してやったの。

 どうやら恐怖のあまり

 車が来ている事に気づかず飛び出したみたいね。

 馬鹿な猫。私の呪いなんか全然効かないのに・・・。」



そう言って、少女は肩をすくめた。



「こんな事がしたくて、ここに留まってるんじゃないの。本当はね・・・、」



そう呟いて少女は俯いた。

少年には少女が、

どことなく悲しげな表情を浮かべたような気がした。

が、すでに大量の血が流れ出つつある少年には

その後の少女の行動を目にする事は出来なかった。

そして少年は意識を失った。




少年が目を覚ますと、そこは病院だった。

心配そうに覗き込んでいた母親と目が合う。

母親は涙声でわめいた。



「あんたが家からだいぶ離れたところで

 血だらけになって発見されたって電話をもらった時は

 母さん、びっくりしたわよ!

 一体、何があったっていうの!?」



そんな母親の声が聞こえているのかいないのか、

少年はぼんやりとした表情を浮かべていた。

意識を失っている間中、ずっと聞こえていた声。

少年はその声の主を思い出す事が出来なかった。

というより、

冒険に出かけてから今までにあったはずの事柄が

完全に記憶から抜け落ちていた。



そして、少年が成長し大人になっていく。

それでもその声が消える事はなかった。



(本当は、誰でもいいから私の事を覚えていて欲しかったの。)




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posted by 霧沢美咲 at 16:25| Comment(0) | TrackBack(0) | お題ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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